購買心理と店づくり

回想 Recollect

 入り口付近の目立つところには購買頻度の高い低価格商材をボリューム陳列して多数のお客さまをキャッチし、高価格・高粗利な商材は対面の接客や使用時体験などでじっくり売り込む。

これは度々お伝えしてきた小売店の店づくり、売場づくりのセオリーです。

もしこの逆をやったら、店としてうまくいかないのは容易に想像がつくと思います。

例えば、薬局が高価な秘伝の漢方薬を店頭に大量陳列しつつ、安売りのティッシュペーパーは店の奥のガラスケースにしまって接客販売していたら、この変な薬局はいったい何がしたいのか?と思うでしょう。

AIDMAの法則の話を持ち出すまでもなく、お客様の気を引くところからはじまって購買行動に至るまでの心理プロセスを理解し、適切にアプローチをしなければならないのは、あらゆるビジネスに通じる鉄則なのです。

さて、これを温浴施設に置き換えて考えてみるとどうなるのでしょう。

最初の入口にあるのが入館料(入浴料)であることは、お風呂屋さんである以上そうなることと思いますし、入浴は食事と同様に誰にとっても日常的で身近な行動ですから、まずお風呂に関する情報で気を引くというのはセオリー通り効果的であると思います。

では、売り場の奥には何があるのでしょうか。

温浴施設の取り扱い商品の中で、高価格で高粗利なものと言えば、トリートメント(ボディケア、エステ、あかすり等)です。

入り口付近の目立つところでは購買頻度の高い低価格商材、つまり「入浴」を見せて多くのお客さまの気を引きつつ、高価格・高粗利なトリートメントを対面の接客や使用時体験などでじっくり売り込むというのが、温浴施設をビジネスとして見たときのセオリーに沿ったやり方になるのではないでしょうか。

ところが、ほとんどの温浴施設はトリートメント部門をそのように扱っていません。遊休スペースの有効活用なのか、まったく目立たない場所にあったり、快適とは言えない環境でやっていたりするのをよく見かけます。

最も高価格・高粗利な商材を、空調もきかない廊下の隅に衝立を立てただけのような空間で平気で売っているのは、上記の変な薬局と同じことではないでしょうか。

基本的に「入浴」を売る小規模な専門店で、ちょっと空いているスペースがあるからマッサージでもやってみようか、という位置づけである時はそうなるのも仕方ないかもしれませんが、何百坪もの施設面積があり、最初から設計にボディケアやアカスリ部門を組み込むなら、それは専門店ではなくショッピングセンターや百貨店と同様にデベロッパー的発想が必要なのです。

直営かテナントかに関わらず、お客さまの利用動線や購買心理に合わせて最適な配置や規模設定をすれば、せっかくの集客をもっと成果につなげることができるはずなのです。

 温浴施設の中でも最も高価格・高粗利であるトリートメント部門の収益を最大化すべく、徹底的に工夫された施設の代表例は、いまは閉店してしまったニュージャパンサウナだったと思います。

入館料にはじめからトリートメントサービスがセットされていたスパプラザやスパグランデはもちろん、オプション料金にしていたカバーナやレディスサウナにおいても業界標準値とは桁違いのトリートメント利用率となっていました。

スパグランデのトリートメントルーム

もちろん、トリートメント部門は直営です。セラピストたちはニュージャパンのスタッフであることに誇りを持っていました。

そんなセラピストたちが提供する接客サービスは、まさに「売場の奥」。高価格・高粗利にふさわしいものだったと言えます。

「スパ・トリートメント」は何億円も投資して作った温浴施設の最高峰に位置づけられる部門です。

コンビニ跡地でやっているような格安マッサージ店とは本来競合するようなものではないはずなのですが、「格安マッサージ店の影響でボディケアが不振」がずっと業界の合言葉のようになってしまっていて、そうではないはず、といつも思うのです。

直営か委託かというのは単に契約の形であり、問題の本質ではありません。

問題は「場所貸しして手数料をもらっているだけ」といった施設側の意識や、「場所を借りて、温浴施設の入館者数にぶら下がって商売させてもらっているだけ」というような受託側の意識です。

いろいろな商品やサービスが複合した温浴ビジネスというひとつの集合体の最高峰にスパ・トリートメントがあるというように考えれば、もっとできること、やるべきことがたくさんあると思っています。

(2019年10月7日・8日執筆)

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