東日本大震災から2週間ほど経った時、なかなか好転しない被災地の状態を見て、温浴で少しでもなんとか役に立ちたいという思いにかられ、ドラム缶風呂を思いつきました。ドラム缶や関連道具一式を運搬して東北自動車道を走りながら、ふと以前顧問先で聞いた話を思い出していました。
それは2000年頃のことでしょうか、大阪なんばのニュージャパン観光さんのお手伝いをしていた時のことです。
毎年敬老の日になると、ニュージャパン観光では大型バスにセラピストを乗せて、大阪市にある弘済院という養護老人ホームを慰問で訪れます。
その日は、年に一度、弘済院のお年寄りの皆さんに無償でマッサージをする日なのです。お年寄りの皆さんもこの日を楽しみにしていて、セラピストがマッサージをしてあげると、中には手を合わせて感謝してくれるお年寄りもいるそうです。
日頃は客単価アップや指名率といった経営的な目標を追求しているセラピストたちも、この日は自分たちが日頃磨いている技術がこんなにも人を癒し、喜ばすことができるんだということに気づかされます。
それが、仕事の本質的な価値であり、仕事に対する誇りやモチベーションにつながるのです。
「社会貢献活動であると同時に、自分たちにとってもすごく意味のある日なんですよ。」と、当時の中野社長をはじめとする幹部のみなさんが嬉しそうにおっしゃっていたのが印象的でした。
ドラム缶風呂を運んでいる自分は、それと同じことをしているのかも知れないな、と思ったのです。
ドラム缶風呂というのは極めて原始的なやり方ですが、それだけに「温浴」ということがどれだけ人を幸せにするのか、シンプルに気づかされます。風呂に入ってさっぱりし、ぽかぽかに温まった人たちが見せる笑顔に、この仕事の本質的な価値を再確認させられています。
今回の大震災ではたくさんの方々が被災し、いまも避難所生活を送っています。はじめは救命と安全確保、そして水や食物、衣類といったことが重要ですが、その次くらいにお風呂が求められるという優先順位の高さに、ちょっと驚かされました。
「温浴」は、決して不要不急のビジネスでも贅沢ビジネスでもなく、日本人が生きて行く上で必要不可欠な価値を提供しているということを、この仕事に携わるひとりとして忘れてはならないと思っています。
(2011年4月12日執筆)