激安マッサージ店の影響を受けてリラクゼーションサービスの売上を落としている温浴施設に対して、業績改善策のひとつとして「ウエットゾーンサービスの強化」を提案することがあります。
かつての相場の半額近くで営業している激安マッサージ店は、基本的に低価格であることが最大のウリですので、設備投資はできるだけ抑えた店舗内容ですし、メニューのバリエーションも絞っています。
ですので、同じ土俵に立って価格で対抗しようとするのではなく、相手にはできない部分を強化することでお客さまの支持を取り戻そう、という考え方で、激安店にはない浴室内のサービスを強化するのです。
浴室内サービスといえばアカスリが定番ですが、単なるアカスリだけでなく、オイルや泥、塩など様々な材料を使うことでバリエーションを増やすことができます。
さらにアカスリ室だけでなく、洗い場での背中流し、いわゆる三助サービスも可能です。本来的な銭湯の三助さんは、東京・日暮里の斉藤湯の「日本で最後の三助」と言われた橘秀雪さんが2013年に引退したことで消滅してしまいましたが、銭湯以外の温浴施設ではまだ何か所か同様のサービスが行われています。
大阪ニュージャパンサウナの「座りアカスリ」、東京楽天地スパの「背中流し」、東名厚木健康センターの「三助」、あとは各地でイベント的に行われている「お背中流し隊」などがそうです。
そのうちのひとつ、楽天地スパに先日久しぶりに行ってきたのですが、背中流しサービスは健在でした。かつては入館料に含まれる形でピンク色の札を渡され、その札を浴室で担当者に渡すと背中を流してくれる方式だったのですが、今は入館料とは別に700円の有料オプションサービスで上半身のアカスリ、洗体、シャンプーをやってくれます。
洗い場をふと見ると、「炭酸水シャンプー350円」という初めて見るPOPが貼ってありました。背中流しのおばあちゃんに聞いてみると、背中流しのさらに追加オプションで、シャンプーの際に炭酸水を使って泡立て、洗いあがりにも髪と顔に炭酸水を使ってくれるそうです。使用する炭酸水は500mlのペットボトル。
500mlの炭酸水はブランドにこだわらなければ、1本40円くらいで買えるものですので、それを使った350円のシャンプーサービスならしっかり利益も確保できています。
これは、背中流しという楽天地スパならではのサービスが確立していて、さらにその次の一手として誕生したものです。実際の利用者がどのくらいいるのかは分かりませんが、日本でおそらく唯一無二であろうそのPOPが少し眩しく感じました。
このように、ひとつ前に踏み出せば次の手が見えてきます。一手目、二手目では大きな成果につながらなくても、何手か先に大ヒットが生まれるかも知れません。
何かやろうとする度に費用対効果とかリスクとリターンといった議論になってしまい、なかなか先に進めないケースがあります。しかし、よほどの投資がかかるとか、大きなリスクが目に見えているようなことでなければ、とにかく前向きに進んでみましょうと考えるのが正解だと思います。
進んだ先でしか見えてこない、新しい世界が拡がっているのですから。
(2018年5月25日執筆)